『グレイテスト・ショーマン』を観て生まれたちょっとした不満(それはアートなのか、エンタメなのか)

「それはアートなのか、エンターテイメントなのか」という話がある。

自分の才能とセンスの赴くまま感情を表現する、あるいは問題を提起する芸術作品なのか。大衆の欲望や嗜好を徹底的に分析し、彼らをいかに喜ばせるかを追求した娯楽作品なのか。

 

グレイテスト・ショーマン』を観てきた。
あの映画は最初から当然のごとく、エンタメであることが決まっていた。

 

ラ・ラ・ランド製作チームの新作!」などという触れ込みだったので何を思ったか私は『セッション』『ラ・ラ・ランド』のディミアン・チャゼル監督の最新作だと思い込み、1年前からワクドキで公開日を待っていた。

『セッション』ではアートや美について、『ラ・ラ・ランド』ではエンタメとアートのはざまの葛藤について、監督…30代でなぜここまでの葛藤を乗り越えているんだ…というくらいのチャゼル監督の熱量を見たところだったので、また同じテーマについての同じだけの熱量が観られると思っていた。

しかも予告編に現れるテーマ曲「This Is Me」の歌詞。アートかエンタメか、に加えて、差別偏見とそれを乗り越える人たちの描写も入ってくるのか。号泣必至。チャゼル監督がその辺のことを扱ったらどう料理されるんだろう。期待値100000000。
――違う違う、チャゼル監督じゃない。その時の私に、誰かそう言ってくれ。

 

観賞する直前に映画のHPを眺めていて、ふと「あれ?」と思いスタッフのページを開いた。「そういえば、製作チーム!とは言われているけど、監督!とは言ってないよな」と。
ー当然のようにチャゼル監督ではない方のお名前。

 

いや、私が悪かった。私が悪かったよ。製作チームとしか書いてないのに、監督も同じだと勝手に思い込んでいた私が悪かったよ。でもさ、「製作チーム」ってでかく書いてある広告ページの下の方見たら小さく「音楽チーム」って書き変わってんじゃーん。その雑さはねーよー。最初から音楽チームってどでかく主張してくれよー。まあいいんですけど。

ラ・ラ・ランド』のように、大衆を考慮した数々の魅力的な歌とダンスの中に、チャゼル監督の才能や感情の爆発的な発露(=エンタメの服を着たアート)が隠されていることを勝手に期待してしまっていた私だったので、単純に「監督が違う(それは私の思い込みだった)」というだけの事実を自分の中で整理しきれずに観賞した。

 

「エンタメであることが決まっていた」と言ったけれど、最初から、あの映画はエンタメとして作られていたし、よく考えたらエンタメとして宣伝されていたし、事実最初から最後までエンタメだった。いやゴールデングローブ賞獲ってるしどこぞの島国の何も成し遂げてないクソOLが褒めるまでもないのだけど、ものすごくクオリティの高いエンタメだった。魅力的な出演者の方々の美しい歌声、とんでもない時間をかけて振りを練られレッスンされたであろうダンス、絢爛豪華な美術セットやCGでつくられた、色とりどりの背景や効果。まあ楽しい。見ていて楽しい。一方で「一念発起!成功!挫折!成功!(=起!承!転!結!)」がすごいスピードで進んでいくストーリーには、すこし辟易した。
「エンタメの服を着たアート」を期待していたことを整理できずに観た私は、複雑な気持ちで終わった。最初からあの映画を最高のエンタメとして受け取りに行っていたら、もうそれは全力で楽しめだろうな。

 

ここまで書き連ねてきたのは、クソ自分勝手な単なる勘違いから生まれた不満でしかないのだけど。誰かが何らかの形で発信するものは何でも、「それ」はアートなのかエンタメなのか、発信する側が規定して、さらに我々受け取る側がどちらか期待して、受け取った後もなお判断していく。その全てが合致していないと、まあまあ大変なことになる。『ラ・ラ・ランド』を面白くないと評する人が口をそろえて「あの流れならハッピーエンドが良かった」「音楽があったのが前半だけだった」と不満をもらしていたのは、そういうことなんだと思う。『ラ・ラ・ランド』については、エンタメとして宣伝されて、エンタメとして始まって、中からエンタメの服を着たとんでもなく強い主張が発現したので。

 

エンタメについては受信側にしかなりえない一般消費者として等身大で考えると、映画ってお客さんがチケット買った時点で儲かるから、商売としてはいかにチケットを買わせるか、なんだろうなーとは思うんだけど。チケットを買わせるための表現にくらいついて、『ラ・ラ・ランド』でも『グレイテスト・ショーマン』でも、少しだけ苦しむお客さんもいるんじゃないかなと思った。

映画配給会社だって営利企業だというのはわかってるので、「『ラ・ラ・ランド』は後半、監督がやりたいことをやった映画です」て言え、とか、「『グレイテスト・ショーマン』はラ・ラ・ランド製作チームの映画って言うなや」とか、そういう文句が言いたいわけではないんだけど。なんだかな。というざらついた気持ちだけが残った。

 

とはいえ、たぶん『グレイテスト・ショーマン』はもう一度見に行く。楽しかったので。今度は「エンタメ」という前提と一緒に、全力でエンタメを受け取る気で観にいきます。

 

※アートをやる側になりたかったけれど、自分にはそこまでの才能も力量もなくてエンタメを目指すことになった、みたいな、発信する側の社会人の葛藤についてはかっぴー『左ききのエレン』(webマンガ)にめちゃくちゃ描いてあるので「あ~はいはい、そういう話あるよね~』と思った人はすべからく全員読んでほしい。発信者としてのそういった葛藤は、作品を作るクリエイターだけでなく、すべての仕事に就く社会人全員が持ちうるものだと思っている。けど、それはまた別のお話。