HIKAKINはすでに大御所なのだ(平成はもう終わっている)

Excelで計算式を入力し計算結果を出したあと、電卓で検算しろという会社員がいる(らしい)。

メールが使えないから、資料はFAXでやり取りしたいという会社員もいる(らしい。アメリカではFAXは博物館に飾られているらしい)。

話題の大相撲行司セクハラ事件について、とくダネ!の小倉さんは「なんで内々の話でとどめられなかったのか」と発言し批判を受けた。(バイキングでの70代男女に対するインタビューで、一般人も「酒の勢いでやったことで」「セクハラ程度でこんなに騒がなくても」というようなことを発言していたので、これは小倉さん個人の価値観ではなく、60代70代の方々にとっては一般的な価値観なのだろう)

「みんな同じ顔してる」と大人に言われながらAKB48に熱狂していた私たちは、欅坂46の平手さん以外のメンバーをあまり知らない。

ポケモンならアンノーンの種類まで含めて何百匹でも覚えられた私たちも、ジバニャン以外のようかいウォッチキャラの名は聞かれてもわからない。

 

ムラ社会に住む私たちはいつだって、自分が慣れ親しんだ社会の外で起きている現象には追いつけない。

 

いつかの『水曜日のダウンタウン』で「下層YouTuber地獄説」という企画を観た。

企画の初っ端で、中間層のYouTuberを見てみよう、と登録者数約30万人の「たいぽん」というチャンネルの「ひとつの飴を3人で舐めきる」という動画を「地獄」と評価していた。たしかに、3人の男がキスで飴を渡しあって舐めていく様子をただ撮っただけの動画は私から見てもまったく面白くなかった。

だが、たいぽんにはたしかに30万人のファンがいるのだ。Twitterのフォロワー数も約24万人。「地獄」である彼の動画は間違いなく中高生から評価されている。

 

中学校の教師をしている知り合いが「教室で流行っているのはモンストかジャニーズかはじめしゃちょーかワタナベマホト」と言っていた。モンストはゲームアプリ、はじめしゃちょーとワタナベマホトはイケメンYouTuberである。本旨とはずれるが、この中に毅然と名を連ねるジャニーズってすごい。(ちなみにいまだに山田涼介くんが人気らしい)

 

ミヤネ屋が平成生まれに聞いたという「平成のカリスマランキング」では、羽生結弦安室奈美恵を抑えHIKAKINが3位にランクインしていた。

我々の傍にテレビで観るお笑い芸人やアイドルがいたように、彼らの傍にはスマホで、あるいはパソコンで観る、YouTuberがいる。

そんなわけでYouTubeは既に、ひとつの文化になっている。

 

17年に人気急上昇した2人組YouTuber「水溜りボンド」は、事務所内で撮っているある動画のなかで、突如横を見て「ハッ」と顔を強張らせ、すくっと立ち上がってお辞儀した。その後にカメラに向かって呆然と発した言葉は「今HIKAKINさん通りました…」。

どうやら、日本のトップYouTuber・HIKAKINが事務所の廊下を通る様子が部屋の中から見えたらしい。おそらく彼は部屋の中にいる水溜りボンドに気づき、手でも降って通り過ぎて行ったのだろう。

同じく急上昇中の4人組「アバンティーズ」の1人のメンバーは、ある企画でHIKAKINの家を訪問することになった際、顔を真っ赤にして「(カメラを)回すのも恐縮です…」「(ソファーに)座っちゃった…」「(マカロンを出してくれたHIKAKINに対して)もてなさないでください!」と興奮していた。

 

私たちはHIKAKINをはじめとするYouTuberの動画を見て、心底つまらないと感じる。アラサーのぽっちゃりしたおじさんが200万円のおせちを食べたり、400万円純金のハンドスピナーを回したりすることの何が面白いのかわからない。

だが、今の小中学生にとっては、それらは「常にそばにあるもの」であり、彼らは「友達」。ただ、「そばにあるもの」という文化を初めて創り出したHIKAKINは、彼らにとって「神」である。

ライター武田砂鉄のcakes連載コラム「ワダアキ考」の中でも、「そもそも彼は『面白いかどうか』という基準を一番にはしていない」「HIKAKINは小中高生に向けて『ほっとする時間』を提供している」と考察している。

いかに、流行の主人公である若者と身近にあるか、がYouTuberの課題。そんなYouTuber観をHIKAKINが創り上げ、実際に、彼は毎日、学校帰りの小中学生の傍らで生きるようになった。水溜りボンドやアバンティーズがHIKAKINに対して恐縮するのはただ単に業界の先輩だからではなく、「子どもと10代が日常的にYouTuberとともにある」という現代の文化を創り上げたいちばんの立役者であるからこそだ。

HIKAKINは小中学生にとって、明石家さんまと同等の、いやもしかしたら明石家さんま以上に「大御所」の認識なのだ。

 

YouTuberの動画を面白くない、地獄だと表現するわたしたちの価値観は、Excel検算おじさんやセクハラ肯定70代やピカチュウ以外ポケモンわからないおばさんのそれと一緒である。YouTuberにとって、我々の価値観や評価など必要ない。

いまの小中学生、すなわち今後社会をつくっていく小中学生にとって、YouTuberの存在は「普通」。HIKAKINは大御所。たぶん、そのうち、HIKAKINとはじめしゃちょーとヒカルでBIG3とか言われるようになる。明石家さんまタモリビートたけしみたいにね。

 

SMAPが解散し、安室奈美恵が引退し、『めちゃイケ』も『みなさん』も終了する。平成が終わる。

HIKAKINがレールを敷いて、いわゆる「若手YouTuber」が次の時代を創っていく。そしてわたしたち平成のオトナは、すでに価値観が古いということを認識しなければならない。

 

と壮大なことを言ってみようと思ったのは、土日をYouTuberの動画を観て過ごしていると話したとき、だいたいの友人に「小学生じゃん。暇かよ」と笑われて実際クソ暇なので何も言い返せず辛かったからである。私が普通にYouTuberにハマっているだけで、本当は特に問題提起とかするつもりは毛頭ない。ただ、会社員のように休日もなく、好感度を気にしながら毎日動画撮影して編集しているYouTuberの皆様には頭が上がらない。いつもご苦労様です。